『闇の守人』
- 上橋菜穂子:作 二木真季子:絵 偕成社 1999年 小学校高学年から
とにかくおもしろい!!<守り人>3部作の第2部。
このシリーズは、心に刻まれた過去の傷痕が現在の生に落とす影と、そこからの再生が、共通テーマになっていると思う。
第1部『精霊の守り人』で、チャグムを守り通した女用心棒のバルサは、生まれ故郷のカンバル王国に20余年ぶりに戻る。それは、自分の過去と向き合う為、又、養父ジグロの汚名を晴らす為だった。
しかし、事態は、想像以上の最悪の黒い霧につつまれており、新たな陰謀が・・・。手に汗握る想いで、あっという間に物語が突き進んでいく。起承転結がはっきりしていて、しかも、一行の無駄もなく、全てが完璧だ!!
正義たらんとするジグロやバルサたちの清き心と、言葉巧みに嘘を固めて己を正当化し続ける英雄のユグロの汚き心とが、物語の二つの対極の柱となっている。そして、読者は、英雄ユグロに、怒り憎しみを増していく。又、登場人物一人一人の心理描写や闘争シーンが、実に細かに描かれており、読む者の心を捉えて離さない。
クライマックスを迎えると「脇腹に熱い痛みがはしるのを感じた瞬間、その傷口から、ジグロの、おさえきれぬ憎しみがしみこんできた。ジグロが、自分をにくんでいる・・・!」(文中引用)と、正義の象徴である筈のジグロの本心が見えてくる。バルサはもちろんのこと、読者にも衝撃が走る!!
「闇の守り人」の闇とは、自分たちの先祖の死後の世界であり、人間の心の闇の世界でもあるのだろう・・・。相反する2つの心が、同じ人間の心の闇に潜んでいる事を知る・・・故に人間なのだ! そんな事を改めて教えてくれる。
そして、それを正面から見つめ、その壁を突き破ったとき、バルサの心は深い傷を負いながらも、徐々に癒され、痛みを回復していく。そういうことって、私たちそれぞれの人生にも起こりうる事であり、だからこそ感銘を受けるし、心の機微にふれ、感動を呼び起こす。
最も多感な思春期、「自分は何故生まれてきたのか?」「何故私は私なのだろう」「私は死んだら何処へいくのだろう?」そんな問いが忍び寄る。答えを求める様に、そんな時代をこの様な素晴らしい児童文学と触れ合うことって、とっても大事だし、ステキなことだと思う。物質文明だけでは語り尽くせない、精神文明の大切さを、もっともっと青少年に知って欲しい・・・・・。
作家としての創作活動と文化人類学(オーストラリア先住民族・アボリジ)の研究という二足の草鞋をはく上橋氏の、今後の活躍を多いに期待する次第です!!
文責 しろくまちゃん 2000年10月
|