『精霊の守人』  

 上橋菜穂子:作  二木真季子:絵  偕成社 1996年  小学校高学年から
   (野間児童文芸新人賞 受賞作品)


 とにかくおもしろい!!
 新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムは、精霊の守り人(ニュンガ・ロ・チャガ)として雲の精霊(ニュンガ・ロ・イム)の卵を宿してしまうという不思議な運命を背負わされてしまう。
 妃から皇子チャグムの命を委ねられた『短槍使いのバルサ』という女用心棒がチャグムと共に逃亡。それを追う帝・聖導師の陰の手下「狩人」たち。
 百年に一度、卵を産む精霊(水の守り手)とは? そして夏至祭に隠された謎解きとは?! 果たして、バルサたちはチャグムを守りきることができるのだろうか。手に汗にぎる想いでハラハラドキドキ、アクションあり、陰謀あり、ほっとする所ありと、一気に読めてしまう。
 この物語には、『皇国の古い体制が権威を守る為に、皇子の命さえも亡きものにしよう』 とする古さと、『31歳の女が"誰よりも強い力をもつ用心棒"というヒロインである』という新しさが共存しており、今の時代を反映していると思う。
 一昔前の児童文学に於いて、30過ぎの嫁にいきそびれた女は十分おばさんであり、ヒロインたり得ることはなかった筈。
 しかも、好き会うた仲の薬草師タンダは、バルサより年下で、バルサの方がだんぜんケンカに強い。タンダは闘いに傷ついたバルサの傷を癒し料理も作る。男と女という概念にとらわれないジェンダーフリーの関係が、とても新鮮である。
 しかし、この二人、バルサが背負う悲しい生い立ちを乗り越えるまで夫婦になることはできないらしい。互いを思いやる気持ちがとてもせつない・・・・・。けれども、このせつなさは、小学生の子供たちには分からないだろうなと思ってしまう。
 案の定、6年になる息子は、「ハリ−ポッタ−」には夢中でも、この本のことは「べつに・・・」ときた。女の子のほうが、感情移入しやすいんじゃないかな〜。
 チャグムの用心棒になることによって、初めて、養父ジグロの心を理解し得ることができたバルサは、その養父ジグロの一生を、ジグロの親戚や友に伝えるべく生まれ故郷カンバル王国へ旅立つ。それは、まるで己のカルマを紐解くことでもあるかのごとく・・・・・・。
 「なぜ、ととうてもわからないなにかが、とつぜん、自分をとりまく世界をかえてしまう。その大きな手のなかで、もがきながら、ひっしに生きていくしかないのだ。だれしもが、自分らしい、もがき方で生きぬいていく。まったく後悔のない生き方など、きっと、ありはしないのだ。」(文中引用)
 この本の中で、一番好きな箇所です。まさに、作者の言わんとするテ−マかなと思う。 その大きな手というのが、神なのか、宿命なのか、受け取り方はさまざまだが、必死に生きている姿って美しいですよね・・・ステキな本です!!
   

文責 しろくまちゃん 2000年3月



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