『西の善き魔女』1〜5
- 荻原規子:著 牛島慶子・きがわ琳:画 中央公論新社C.NOVELS 中学生から
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「1.セラフィ−ルドの少女」 1997年9月25日初版
グラ−ル王国の最北端セラフィ−ルドに於いて、偏屈な天文学者の父ディ−博士と、その助手ル−ンとともに平凡な暮らしをしていた15歳の天真爛漫な少女フィリエル。
母の形見の首飾りをつけ領主の舞踏会に出たフィリエルは、そこで女王候補のアデイルとその兄ユ−シスに出会い、彼女の運命は渦中に投げ出されてしまう。
自分が失踪した(かっての)女王候補の娘であることを知ると同時に、ディ−博士は失踪し、異端の天文学を熟知する助手のル−ンに裏の組織の手が伸びる。
彼の身を護るため、従姉妹アデイルとともに時期女王の座を巡る謀略の中に突き進むことを決意するフィリエルだった。
「2.秘密の花園」 1997年11月25日初版
異端の研究を狙う秘密結社「蛇の杖」からル−ンを護るため、ロウランド家ルアルゴ−伯爵と契約を交わしたフィリエルは、ト−ラス女子修道院付属学校へ送り込まれる。
「秘密の花園」とか「魔の巣窟」だとか噂されながらも、清楚な良家子女の園と思われたこの地にこそ、「西の善き魔女」とあだ名されるグラ−ル国の真実が隠されていたのだった。宮廷から最も離れているようで、むしろ一番宮廷に近い、宮廷そのものの縮図の世界があった。
孤立無援となったフィリエルの挑戦が錯綜する。
「3.薔薇の名前」 1998年4月25日初版
光り輝く王宮ハイグラリオンでの暮らしはこの上なくきらびやかで、華やかな宴が夜毎繰り広げられる。
虚飾の仮面の裏では、アデイル女王候補を擁立するロウランド家(北部)と、その姉レアンドラ女王候補を擁立するチェバイアット家(南部)の、ひいては保守派と急進派の対立が渦巻いている。
そんな中、フィリエルは自分にとって失ってはいけない一番大切なものに気づく・・・。
しかし、ル−ンは彼女の前から姿を消してしまう。
「4.世界のかなたの森」 1998年11月25日初版
南の小国カクヴェルから竜騎士派遣の要請がなされ、竜騎士として任命を受け南に向かうユ−シス。そのユ−シスを護るという大義名分の下に、南へ向かったであろうル−ンを求めて旅立つフィリエル。
やがてル−ンとの再会を果たすフィリエルは、付き添いのイグレインとともに3人で「世界の果ての壁」に辿り着く。ところがそのとたん、フィリエルだけが別の世界にスリップしてしまい、出会ったのは奇妙なしゃべり方をし、摩訶不思議な力を持つ吟遊詩人。
3日後元の場所に戻れたフィリエルは、今度こそル−ンとともに生きる道を、自分の意志で選びとる。
「5.闇の左手」 1999年5月25日初版
「世界の果ての壁」の謎を探るル−ンとフィリエル。ユニコ−ンを駆り竜退治に奮戦する竜騎士ユ−シスたち。その南の地で彼らが見たものは、グラ−ル国を侵略せんがため南の果ての壁をつたって現れた、東の帝国ブリギオン軍・・・・・。
ルーンとユ−シスたちは協力しあい、ブリギオン軍逆襲の作戦に出る。
一方フィリエルは、女王継承問題の危機に、コンスタン女王との対峙の場へ臨み、遂にグラ−ル創世の秘密が解き明かされる。
(まとめ)
西の善き魔女・・女王継承問題とくれば、これはイギリスを想定したお話かなと思えた。
そして、『勾玉三部作』で実力を実証済みの作者が、和風のものからガラッと変わった西洋ファンタジ−を綴るところが新鮮だった。
以前、ノベルス判の表紙を手にとった時、あまりにも漫画チックなので抵抗があり避けていたが、今回は後から出た単行本を見つけ、佐竹美保さんの表紙の絵も気に入り、読んでみる気になった。ところが、重たく厚い本なので疲れてしまい、途中からは軽くて読みやすいノベルス判に切り替えた。本の装丁としては単行本のほうが格式があっていいのだが、やはり手軽なのはノベルス判でした。
さて、物語は古典的なファンタジ−の要素が盛り沢山でありながら、現代的要素も随所にちりばめられている。小気味良いテンポのあるリズムで会話がきざまれ、飽きることなく展開されるスト−リ−。とても読みやすい文章なので、物語にすんなり入っていくことができる。
ただし、女性には小気味良い内容でも、男性にはすんなり入り込めない世界のような気がする。よって男性読者は少ないかもしれない。
なぜ「魔法」がでてこないのに「西の善き魔女」なのか?その疑問を抱きながら読んだ。
そして、「魔女」ならず「女の魅惑と知力を武器にして国内外を統治する社会という世界観」が底辺にあることに気付いた。だから「善き魔女」なのだ。それに、それって現代社会の我々の日常生活にも当てはまるかも?と思ってしまうのは私だけでしょうか・・・?
第1巻で、形見の首飾りから始まった荒野の少女フィリエルの旅は、第2巻の学園もので黄金パタ−ンを踏んでパワ−炸裂・・・。ル−ンが女装してト−ラス女学校へやってきた時には可笑しさ絶頂!!勢いがあって躍動感があって、とにかく楽しい・・・。
そして、第3巻では、いよいよ陰謀渦巻く王宮の世界と、ここまでは女王争いを縦軸に、少女フィリエルの心の成長を横軸にした成長物語かなと思って楽しく読めた。
ところが、一転して第4巻、第5巻ではSF的要素が盛り込まれ、それなりに面白いのだが、あれもこれもと話を詰め込み過ぎた感がある。ちょうど毎日高級料理を食べ過ぎて、ちょっと消化不良をおこしそうという感じなのである。
そのため、ラストのつじつま合わせも超特急で走りすぎて、なんだか「エッ−、そんな・・・」という不完全燃焼の感が残ったのが残念だった。
最初から最後までのお話ができていて書いているのではなく、一巻ごとに書きながら話を広げたために、ちょっと散漫な物語にしあがったかなという気がします。
登場人物それぞれのキャラクタ−はとても魅力的で、物語構成のすばらしさをより引き立てている。主人公たちが自分にとって本当に大切なものを知り、その大切なもののためには全てを捨てて、命をも懸けていく強い意志を持ち合わせていることに、私自身勇気付けられる。
何者にも媚びず、守るもののために純粋に自分らしく生きようとするフィリエルとル−ンに拍手喝采を送りたい。
そして、二人の度重なるキスシ−ンでは、ほほえましく心癒される想いでした。
尚、外伝の本も記載しておきます。
「外伝1.金の糸紡げば」 朝比奈涼子:イラスト 2000年1月25日初版
「セラフィ−ルドの少女」の前史。フィリエルとル−ンの出逢いと絆が語られる4つの季節の物語。
「外伝2.銀の鳥 プラチナの鳥」 朝比奈涼子:イラスト 2000年9月25日初版
華やかでなにひとつ不自由していないかに見えて、実は孤独をかかえているお姫様、アデイルの冒険物語。
「外伝3.真昼の星迷走」 桃川春日子:イラスト 2003年5月25日初版
異端審問官を求めて始まった新たな旅。知りすぎたものの危険と孤独に立ち向かうフィリエルの心が世界を変えていく。
『西の善き魔女』@〜C 四六判 佐竹三保:イラスト 2001年11月〜2002年7月
文責 しろくまちゃん 2003年10月
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