『コロボックル物語 1 だれも知らない小さな国』 初版1959年
『コロボックル物語 2 豆つぶほどの小さないぬ』 初版1962年
『コロボックル物語 3 星からおちた小さな人』 初版1965年
- 佐藤さとる:作 村上勉:絵 講談社 新版1985年 小学校高学年から
コロボックルとはアイヌ語で「ふきの葉の下の小人」を意味する言葉です。
コロボックルと言えば、子ども時代に夢中で読んだこのシリ−ズを想いだし甘酸っぱい郷愁にふける私でしたが、35年という年月を経て、またこの本に魅入られてしまいました。
この物語は、小学校3年だった「ぼく」が、もちの木を探しに行き、小山や杉林や小川に囲まれた三角平地を見つけるところから始まります。小さな泉が湧き、真っ赤な椿が咲くその平地を自分だけの王国にしてときどき遊ぶうちに、その山には「こぼしさま」という小さな人が住んでいるという言い伝えを聞きます。そして、小川に流れていく女の子が落とした赤い靴の中に、三人の小指ほどしかない小人を見つけるのです。
やがて、引越しや戦争や疎開等を経て青年となり再びこの小山を訪れた時、いつかお金ができたらこの三角平地を買い取ろう思い、小屋を建てます。そこで姿を現した小人たちと親しくなり「せいたかさん」とよばれるようになったぼくは、コロボックルの味方となって「コロボックル小国」の発展に力を貸すことになるのです。
幼い頃の出会いを忘れずにいたぼくが、その出会いを追い求めていた結果、大切な人生の伴侶をも得ることができたというプロセスもとても丹念に書かれており、ロマンチックです。つまり、赤い靴を落とした女の子と、この平地で再会し、やがて結婚するのです。
小人と言えば、メアリ−・ノ−トンが1952年に出した『床下の小人たち』の小人シリ−ズの影響を多大に受けているのでしょう。イギリス児童文学の匂いを持ち合わせていながら、アイヌ伝説のコロボックルを下敷きにし、スクナヒコを先祖とすることにより日本古来の土着性(日本では妖精はしっくりこない)を匂わせている。
いぬいとみこの『木かげの家の小人たち』とともに日本児童文学の出発点を担うファンタジ−作品であると言えます。
ただ、ノ−トンの「小人シリ−ズ」との相違点は、借り暮しの小人たちは視点があくまでも小人たちにあり、人間から物を借りて暮らす以上、人間と深く関わっていかねばならないが、『だれも知らない・・・』のほうは、視点はぼくの側にあり、小人たちは原則として人間と関わりを持たない存在だということです。
小人という不思議な生き物が登場する面白さもさることながら、小人を探すまでの過程の描き方がとても魅力的だと思います。文章はリアルで簡潔に書かれ、読む者がイメ−ジし理解できるように新鮮な描写がされている。
また、もちの木の存在を描くことによって、子どもが人生に見出す価値を象徴している。発見したものに愛着し守ることによって、自己確認と人間の成長がみられ、傷つき挫折することがあっても自己を確立していく・・・。人はかけがえのない自分自身をもっていて、その心の内面は自分だけの世界であり、まさに「だれも知らない小さな国」と言えるのではないだろうか?!
折りしも、この小山のモデルは作者が子ども時代を過した横須賀三浦按針ゆかりの塚山公園と知り、私の夫が横須賀生まれで「按針塚でよく遊んだ」と言っていたので、夫に尋ねると、まさに夫が遊んでいたところで、文章に書かれているとおりの場所だと分かり、感慨がより一層深くなりました。まして夫の父は、作者と同年代で長浦小学校に通っていた超ガキ大将でしたから、案外文中にでてくるガキ大将のモデルだったかもしれませんね。
『2 豆つぶほどの小さないぬ』は「1」から5年以上たった頃の物語で、せいたかさんはおチビ先生と結婚し、可愛い女の子を授かって、小山の新居で幸せに暮らしています。
そんなせいたかさんの連絡係を務める風の子と仲間たちが、コロボックルの先祖が昔飼っていたという素早くてりこうな「マメイヌ」を探すために、コロボックル通信社の通信員たちとして大活躍します。
この巻以降、視点はせいたかさんからコロボックルに移り、彼らの生活がかなり詳しく分かるようになります。
『3 星からおちた小さな人』では、「コロボックル小国」は人間の世界からいろいろなことを学んで目覚しく変化を見せはじめていました。
学校、新聞社などができ、その旺盛な好奇心をどんどん伸ばしていきます。
そして、空を飛びたいと発明した小型ヘリコプタ−のテストパイロット中にモズに襲われ、おチャ公という人間の男の子につかまってしまったミツバチぼうやを助けるため、コロボックルたちの救出作戦が始まります。起伏があり、スリルと迫力に富んだとても楽しいお話。
この物語で初めて、コロボックルはせいたかさん一家以外の人間と関係をもつことになります。つまり、現実世界と対峙していくのです。
ミツバチぼうやの救出の鍵を握るのは、せいたかさんの娘のおチャメさんなのですが、この子がとっても可愛い!!
そして、せいたかさんとおチビ先生が結ばれたように、おチャ公とおチャメさんが結ばれることをかすかに匂わしているところが、なんともほほえましくて温かいものを感じます。小さな女の子に振り回されているおチャ公の動揺ぶりが笑えます。
そして、何といっても、ラストシ−ンの夕焼け空が印象的で、余韻をのこしている作品です。
文責 しろくまちゃん 2004年2月
|