『ネシャン・サーガ I』
- ラルフ・イーザウ 作 酒寄 進一 訳 あすなろ書房 2000年 (1996年ドイツ)
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この物語は3部作からなる、長い長いファンタジーである。本の厚さもさることながら、なかなか面白い作品である。
ネシャンの北域で、キトヴァールという小さな街にヨナタンは住んでいた。ある時、ふとしたことから、不思議な杖を見つけた。その杖は「ハシャペト」といい、裁き司が持つ杖だった。第六代裁き司のゴエルの手から、杖はもぎとられ、長く行方がわからなかった。その杖をヨナタンがみつけたのである。そこで、その杖を第七代裁き司に手渡すために、旅に出ることになったのである。それはイェーヴォーがヨナタンに課した使命であった。
イェーヴォーというのは、この世界の神であった。ところがイェーヴォーの息子が、自ら神にかろうとして、『メレヒ=アレス』と名乗りこの世界を造ったのだった。強情で邪なメレヒ=アレスは、その精神を受け継いだ生き物達を造ったのだった。特に人間は、殺し合いをするにいたり、イェーヴォーはそのことを嘆き悲しみ、この地をネシャン(涙の地)と呼ぶことにした。そこで、このネシャンの地にメレヒ=アレスの邪な精神とは対極となるべく7つの呪いをかけた。それが7人の裁きの司を選んだわけである。その裁き司が印として持っているのが、この杖であった。この杖は誰もが持つことができるわけではなく、選ばれた者だけが手にすることが出来る、不思議な杖であった。
この物語はヨナタンを中心に進むようだが、1920年代の地球のジョナサンという少年が、夢の中でヨナタンをみているという設定になっている。ジョナサンは病気から車椅子の生活をよぎなくされていたが、夢のなかでヨナタンと追体験をしていくのである。ヨナタンの冒険とジョナサンの寄宿舎生活が交互に訪れ、私達読者はより現実味をおびた話しとして,物語の渦にのめり込んでいくのである。
この話しのベースは聖書にあるので、読者は物語に安心して浸ることが出来るのかもしれない。ここで多くの動物達が登場してくるのだが、実際にいる動物をヒントに描いているので、まるっきり想像の生き物ではないらしい。作家の知識と想像力により創られたこの作品は、ヨーロッパ人のスケールの大きさに驚きと尊敬の念を持たずにはいられない。ハラハラドキドキしながら、善は悪に勝っていく。それは私達がまさに望むものであった。
それに、ヨナタンに熱い友情をしめしてくれる友達の存在を忘れてはいけないと思った。私達にとって、信じる気持がとても大切であることを、ヨナタンを通して学ぶことができたファンタジーであった。
文責 ピピン 2002年10月
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