丘修三氏の初期の作品ですが、今も根強く支持されているこの作品。読むた
びに心にずっしり響きます。
『ぼくのお姉さん』
- 丘 修三 作 かみやしん 絵 偕成社 1986年 小学校高学年から
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これは表題の『ぼくのお姉さん』を含む短篇6篇からなっています。いずれも障害のある人たちが登場するのですが、筆者の視点は障害を持つ側ではありません。
"手を変え品を変え"、6篇にわたり、そのまわりの人々の心の中を披瀝していくのです。だから、けっこう現状をぴしゃりと書いています。それは、人が誰しも心の
奥底に持っている悪の部分を曝け出し、人間の持つ哀しみを暴露するためでしょう。 人は何かアクシデントに遭遇すると、自分だけを守ってしまいます。他の
人も痛みも気付かぬほどに。そして相手が社会的弱者であればあるほどに。ここでは様々な形で其々のエゴが曝け出されるのです。それは決して他人事とは思えません。
自分自身をふりかえらざるを得ないのです。 筆者はこの6篇を通して、"自分の心と対峙すること"をさりげなく読み手に促します。それを引き出すのがこの作品では"障害"という
プロットであったといえます。
今日、障害をテーマにした啓発的作品、彼らにエールを送る作品は数多くありますが、これは、むしろ、私達其々の心の中に潜む"愚かさ"や、"哀しさ"とむ
きあうための本といえます。
だから、何度読んでも、新たに心が疼くのです。それは、自分の弱さや傲慢さがそこに重なり合うからです。でも読んだ後、沈み込むのではありません。心が浄化された
ように"だからこそもっと誠実に生きたい"という想いがふつふつと沸いてくるのです。それこそが、この作品のすばらしい所なのだと思います。
何も気付かず陽気でいることより、自分の心の中の暗闇を自覚しながら、その哀しみをバネにして、心の痛みを抱えながらも前向きに生きる方が、より"生の尊さ"
がわかるのではないでしょうか。だから、この作品のなかに読み手は切ないほどの深い優しさを感じるのではないでしょうか。
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