しろくまちゃんのページ

〜 10月のお勧め 〜

(2004年)


 食欲の秋、読書の秋、そして韓流ドラマの秋。10月7日、今日から始まる「宮廷女官チャングムの誓い」(毎木曜日の10時BS2)は、ほんと、おもろいで〜〜!! 


★ ★ ★


『バッテリー』

 あさのあつこ:作 佐藤真紀子:絵 教育画劇(1996年)角川文庫(2003年) 中学生から        

 野球をするために生まれてきたような天才児原田巧は、小学校を卒業したばかりの春に、父親の転勤で両親の故郷でもある岡山県境の地方都市、新田に引っ越してきた。病弱な弟の青波の療養の為でもあった。
 巧は、地元の野球チームでキャッチャーをつとめる永井豪と運命的な出会いをすることになる。
 ピッチャーとしては天才、しかし人間としては自信過剰で生意気な巧と、マイペースで兄貴分の豪とは、正反対の性格をもちながらも、お互いの才能を認め合いながら、最高のバッテリーを組むことになる。
 一方、巧の弟青波は体が弱く、母親にいつも面倒を見てもらっているが、とても素直で明るく、巧を自分のヒーローのように思っている。
 その3人を中心に、それぞれの親たち、地元高校の甲子園出場を果たした名監督でもあった巧の祖父、チームの仲間たちが、生き生きと描かれており、お互いに近づいたりいがみ合ったりしながら、それぞれ妥協することなくギリギリのところでぶつかり合う姿を描いていく。

「今日走らなければ、明日、ほんの少しだが確実に身体は重くなる。トレーニングを休んだ後のわずかな肉体の重さと気怠さが嫌だった。」(文中引用)
 この完璧主義な巧の大人びた言動にまずビックリさせられる・・・。自分の才能に絶大な自信があるが故、誰に対しても冷酷なまでに他者を切り捨てる。そのためかピリピリした緊張感が物語全体に溢れている。 そして、巧の痛いほどの純粋さ、「大人は分かってない」という思いは、ひしひしと伝わってくる。
 それにしても、こんな立派な12歳なんているかしらんと、ついつい自分の息子の幼い姿とはあまりにもかけ離れていることに愕然としてしまう。やはり、巧は天才であるが故に、精神的にも大人びているのだろうか?
 そんな巧を何のためらいもなくマイペースに受け止め包み込んでいく豪の包容力、そして純真で真っ直ぐな青波のキャラクターが、物語に奥深さを作っている。
 「ぼくな、兄ちゃん、兄ちゃんみたいになりたいんじゃのうてな、野球がしたいんじゃ、それだけ。」(文中引用)
そう言い切る青波には、すがすがしい雨あがりの青空のような爽快感があり、心が和まされる。名言であると思う。
 これには、さすがの巧もたじたじだった・・・・・。
 5巻までのこのシリーズ、天才少年投手・巧は、この先、中学で先輩や教師や大人たちの理不尽さに一人反発していく。果たして野球部でもチームワークを作っていけるんだろうか?!

 ただの野球小説ではない。子どもだけでなく大人も、女性も男性も、ましてや私のように野球を全く知らない人間も、ぐいぐい引き付けられる名作です。